石川啄木、若山牧水、道浦母都子、と私を短歌へと導いた歌人は何
人かいますが、中城ふみ子もその一人として忘れてはならない歌人
です。共感できるところもありますが、実際に身近にいたらちょっと
困るかもしれません。
没後50年、ということで2004年は各短歌誌で特集を組んでいました
し、新たな出版も何点かありました。
そもそも彼女との出会いは、愛読していた渡辺淳一の『冬の花火』
を読んだことから始まります。戦後の歌壇に突如彗星のごとく登場
し、一瞬の鮮烈な光芒を曳いて消えた夭折の歌人。『乳房喪失』と
『花の原型』の中でひたすら死と性を詠った歌は、賛否両論渦巻く
中この50年の間、色褪せることなく多くの読者を得てきました。
『阿寒に果つ』の主人公である、雪の阿寒で自殺を遂げた天才少女
画家・時任純子を典型とするような強烈な個性と純一なる魂の悲劇
--青春期に出会ったそんな女性にも匹敵するような存在として、
中城ふみ子はいつしか若き渡辺淳一の心を捉え、いつか書かれなけ
ればならない対象として彼の中に巣食い、育まれていったのかもし
れません。
北海道帯広の富裕な呉服店の長女として生まれ、戦中である昭和十
七年の結婚。三人の子供に恵まれた幸せな日々。しかしそんな幸福
が崩れ始め、そんな日々の中、歌をつむぎ始める。
離婚、幾つかの恋愛、別れ、そうして二度にわたる乳癌摘出手術。
それでも激しく恋の炎を燃え立たせる生き様は驚嘆に値する。
再手術のため札幌医大病院に入院。病状の進行につれ痰や血痰が出
る中、ふみ子は死を意識し、おもいたって歌に打ち込むことになる。
折しも目にした雑誌「短歌研究」が第一回新人五十首募集に応募。
特選一席に「乳房喪失」と題され編集長中井英夫が強く推して入選。
昭和二十九年八月三日、死去。「死にたくない!」と口にしつつ。
享年三十一。
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●『冬の花火』渡辺淳一/[著]
角川文庫 504円 (税込)1988年
読了後の興奮冷め遣らぬままに、
書店に駆け込み購ったのが、↓

●『中城ふみ子歌集(現代歌人文庫4)』
国文社 1,260円 1981.3.30刊
『乳房喪失』(完本)、『花の原型』(完本)
◆歌人論:中井英夫、菱川善夫、清水昶
20代の私には、短歌はまだ理解しがたい世界。
本当にその作品の世界と出会うのは後年のこと。
●『定本黒衣の短歌史』中井英夫/著
ワイズ出版 3,975円 (税込) 1993年1月
中城ふみ子の写真がグラビアとしてふんだんに盛り込まれています。
この本によって齋藤史、葛原妙子、前川佐美雄、塚本邦雄、岡井隆
らの名が歌壇外にも知られるようになったようです。戦後の現代短
歌の<読者>は、この本のおかげで誕生したと言えるらしい。

●『中井英夫全集10~黒衣の短歌史』中井英夫/著 創元ライブラリ
東京創元社 1,995円 (税込) 2002年2月
葛原妙子、塚本邦雄、中城ふみ子、寺山修司、春日井建、浜田到…
戦後短歌のきらめく星座は『眠るひとへの哀歌』の詩人・中井英夫
によって不滅の輝きを放つことになった。
『水星の騎士』ほかの全詩篇、短歌論集『黒衣の短歌史』『暗い海
辺のイカルスたち』、新資料「中井英夫・中城ふみ子往復書簡」を
完全集録。
新資料「中井英夫・中城ふみ子往復書簡」に惹かれて2004年に購入。

●『美しき独断 中城ふみ子全歌集』
北海道新聞社 3,000円 (税込) 2004年8月
『乳房喪失』で戦後歌壇を駆け抜けた中城ふみ子。没後50年、甦る
珠玉の歌。未発表の180首を含む354首を新たに収録。
装丁の美しさに惹かれて2004年に購入。

●『女歌の百年』道浦母都子/著 岩波新書 777円 (税込) 2002年11月
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君―与謝
野晶子の『みだれ髪』刊行は一九〇一年、二十世紀幕開けの年であ
った。それから今日まで、愛を歌い、時代を歌い、母として歌い、
女として歌ってきた女性歌人たちのさまざまな作品と生涯を辿り、
女性のこころに勇気を与えてきた短歌の魅力を伝える。
俵万智 『サラダ記念日』の登場―女歌の現在、から書き起こし、
与謝野晶子、山川登美子、茅野雅子、原阿佐緒、岡本かの子、
そうして中城ふみ子についても言及。
戦後の歌人では松平盟子、永井陽子阿木津英などに触れ、道浦さん
本人には控えめに書き流しています。

●『中井英夫短歌論集(現代歌人文庫40)』
中井英夫/著 福島泰樹/企画・編集 国文社
1,575円 (税込) 2001年11月
『虚無への供物』の作家・中井英夫は現代短歌の名伯楽でもあった。
中城ふみ子、寺山修司ほか代表的短歌論を網羅。その短歌への愛僧
を遺言として福島泰樹に語った「黒鳥の歌」を収録。

●『新編中城ふみ子歌集』中城ふみ子/著 菱川善夫/編
平凡社 平凡社ライブラリー 515 1,260円 (税込)
2004年10月
戦後歌壇に彗星のごとく現れて消えた中城ふみ子。「短歌研究」編
集長時代の中井英夫が一等先に見初めたこの伝説的女流歌人の出現
は、現代短歌史上の一大事件として語り継がれている。本書は、
中城の苛烈な愛と生が詠いこまれた『乳房喪失』と『花の原型』の
二歌集を、その精神の発展史が辿れるよう編み直した新編歌集。
中井との濃密な往復書簡も併せて収める。
こちらは購入していないのですが、入門としては手ごろな価格で、
比較的手に入りやすいので紹介しました。
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●中城ふみ子 短歌10首
灼きつくす口づけさへも目をあけてうけたる我をかなしみ給へ
冬の皺よせゐる海よ今少し生きて己れの無惨を見むか
背かれてなほ夜はさびし夫を隔つ二つの海が交々に鳴る
熱き掌のとりことなりし日も杳く二人の距離に雪が降りゐる
いくたりの胸に顕ちゐし大森卓息ひきてたれの所有にもあらず
陽にすきて流らふ雲は春近し噂の我は「やすやすと堕つ」
音たかく夜空に花火うち開きわれは隈なく襲はれてゐる
失ひしわれの乳房に似し丘あり冬は枯れたる花が飾らむ
灯を消してしのびやかに隣に来るものを快楽の如くに今は狎らしつ
冷えしきる骸の唇にはさまれしガーゼの白き死を記憶する
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